時の音 -12

第5章: 愛着の証

達也と大山は、目の前に現れた見知らぬ女性に動揺を隠せなかった。女性は、達也の名前と、地下室に隠された時計の秘密を知っている。彼女の言葉は、達也の胸の内にあった漠然とした不安を、明確な事実へと変えた。

「あなたの名前は?」達也は、手にした木の板を握りしめながら尋ねた。

女性は優しく微笑んだ。「私の名前は水月(みづき)。この骨董屋『時の音』の真の管理人よ。そして、あの写真に写っている、あなたの未来の姿、佐々木達也の、妻だった者」

達也と大山は、同時に息を呑んだ。

「妻……? 俺の未来の……」達也は、混乱しながらも、目の前の女性から抗いがたい懐かしさと温かさを感じていた。

水月は、壁に立てかけてあった、別の木の板を静かに手に取った。それは、達也が持っている木の板と対になる、もう一枚の裏板だった。

「この時計は、愛で動く。そして、その愛を失った時、時を戻すには、二つの愛の証が必要になる。あなたと、あなたの未来の姿との、絆の証よ」

水月は、自分の持つ木の板の表面を達也に向けた。そこには、達也が店で見た山岳小屋の写真が貼られていた。そして、達也が今手にしている木の板が、その写真立ての裏側らしい。

「あの写真には、私と、未来のあなた、そして私たちの仲間が写っている。この写真立ては、未来のあなたが私に贈ってくれた、私たち家族の宝物だった」水月は続けた。「そして、数日後のあの地震で、この写真立ては壊れる。あなたの未来の姿は、この写真立てが壊れた瞬間、時の流れに巻き込まれた」

達也は、地震の後の店の中で、自分が写真立てを元に戻す作業をしたことを思い出した。あの時、確かに写真立てはバラバラになっていた。

「どういうことだ。未来の俺が、時間の流れに巻き込まれたって?」

「この時計は、時間の流れに亀裂が入った時――つまり、強い地震などの大規模な歪みが生じた時、最も愛の強い人物を、修復のために過去へ送るようにプログラムされている。未来のあなたは、この写真立てが壊れたショックと、時計の起動が重なり、過去へ送られた」

水月は、達也の顔を真っ直ぐに見つめた。「そして、彼が送られた先が、ここよ」

達也は、この非現実的な話に、頭が追いつかないでいた。

「過去……。いつの過去だ?」