達也が目を開けると、そこはオフィスの休憩所だった。
窓の外には、都心の高層ビルが見える。ステンレス製のコーヒーメーカーからは、いい香りが立ち上っている。
彼の隣には、大山が立っていた。
「やれやれだな」達也が言った。
「そうだな。ところで、あの骨董屋は大丈夫かな」大山が言った。
地震の後の、元の時間軸での会話だ。ループを脱出し、本来の未来に戻ってきたのだ。
達也は、ポケットに手を入れた。そこには、真鍮製のキーも、木の板もなかった。しかし、彼は確信を持って笑った。
「大丈夫さ。あそこは、愛で守られている」
達也と大山は、骨董屋を見に行くため、休憩所を出た。
路地を入り、骨董屋に近づくと、シャッターは開いていた。扉を開け、中を覗いてみる。
しんと静まりかえった中、誰もいない。しかし、地震の後片付けはされているようだ。
達也は、机の下を見なかった。写真が落ちていないことを、彼は知っていた。愛の証は、今、時計を動かす力として使われているのだから。
達也は部屋の隅の置き時計を見た。時計は、カチカチカチと静かに時を刻んでいる。
そして、その時計の横には、一枚の、新しい写真が飾られていた。
写真には、水月が一人、穏やかな笑顔で写っていた。そして、その写真の裏には、達也の筆跡で、こう記されていた。
「愛は、時の流れを繋ぐ」
達也は、この改変された未来の中で、未来の自分の愛した女性が、過去の自分のために、このメッセージを残したことを理解した。
達也は、「時の音」の謎を解き明かし、自分自身の運命を受け入れた。達也は、大山に向かって微笑んだ。
「さあ、戻ろう。まだ、仕事が残ってる。」
達也は、新たな時間、愛によって守られた未来へと、一歩を踏み出した。