外の景色がまぶしい。
路地は夏の暑さが増し、街の喧騒が包む。
強烈な日差しの中オフィスに向かって歩く。
しばらくして振り返ってみると、骨董店はすでに見えなくなっていた。
達也はオフィスに戻った。
オフィスは骨董屋の近くの道路に面した日当たりの良いビルにある。
10階にあるオフィスの窓からは、都心の高層ビルが見える。
室内には観葉植物があり快適だ。
達也は、パソコンの前に座った。
昼休みの終わりのチャイムがなると、周囲のキーボード音がざわめきだす。
プラグラムの解決策を考えるうちにいつの間にか達也に急激な眠気が襲ってきた。
眠気と戦いながらパソコンをぼんやり見つめている。
画面にさっきの店主の顔が浮かんできた。
店主は不思議そうな顔をしている。
夢の中で店主が何か言いたそうに口が開いた。
「おい」
突然、上から声を掛けられた。
達也は、はっとして上体をあげた。
同僚の大山である。
どうやら、眠っていたらしい。
パソコンはロック状態になっている。
「疲れているのか」
太い大きな声が聞こえる。
大山は大きな体でのそっとした風貌のプログラマーだ。
体格が良いので、レスラーか相撲取りに見える。
大山は、さらに言った。
「コーヒーでも飲みに行こうか」
達也は気を取り直して答えた。
「そうだな、眠くて仕事にならない。」
達也は一日に3杯ブラックコーヒーを飲む。
コーヒー好きの達也は1日5杯飲みたいところであるが、
休憩ばかりしていられないので3杯に抑えている。
透明な仕切り廊下を通って休憩所に行く。
オフィスの休憩所は落ち着いた雰囲気である。
広いスペースに、座り心地の良い椅子が置いてある。
ステンレス製プロ仕様のコーヒーメーカーから、いい香りがしてくる。
達也はコーヒーを注いだ。
一口コーヒーをすする。
この瞬間が堪らない。
体も心も癒してくれる。
窓の外の木漏れ日も気持ちが良い。
プログラマーには休憩が必要である。
行き詰まった時の同僚とのたわいのない会話は、
新たなアイデアを生み出してくれる。
そう言えば、大山は理系の機械好きだ。
達也は今日の骨董屋の時計のことを大山に話してみた。
説明を終えると大山はすぐに乗り気になり、後日一緒に骨董屋に行きことになった。
翌日、仕事が終わり帰り支度をしていると、大山が近づいて来た。
「よう、早く行こうぜ。」
大山は急かしてくる。
早速、一緒に骨董屋に行くことになった。
外はすでに夕暮れになっている。
路地を入り、少し歩くと骨董屋が見えた。
薄暗い中目を凝らしても骨董屋の扉は見えず、近づくと扉の前のシャッターが閉まっていた。
「ずいぶん早い閉店時間だな。」
落胆したような声で大山は言った。
「仕方ない。また来るか。」
達也も残念そうに答えた。
その後何度か、昼休みに骨董屋に行くがいつもシャターが閉じている。
さすがに大山も誘いにこなくなった。
そうこうするうち、達也は骨董屋のことを忘れていった。
達也の仕事も多忙となり、制作の仕事がたまってきていた。