過去の囁き
達也と大山は、机の下から拾い上げた写真を並んで見つめた。
地震で埃を被り、一部が折れ曲がっているが、写っている5人の顔は鮮明だ。
「な、なんだ、これ……お前だろ、これ」大山は、中央に写る背の高い男を指さした。男50代に見えるが、達也の面影が強烈にあり、まるで達也の未来の姿のようだ。
「俺にそっくりだよな。でも、俺じゃない」達也は、何故かわからないが。背筋が冷たくなるのを感じていた。
周囲を見渡すと、店内の骨董品の多くは倒れていた。奥の棚の中に小さな木箱が奇跡的に落ちずに置いてあるのが見えた。達也はそれを手に取ってみる。蓋を開けると、中には古びた真鍮製のキーが一つ入っている。
「キーか。何の鍵だろうな」大山が手を伸ばすが、達也は無意識にそれを握りしめた。
その時、店の奥からカチ、カチ、カチと、規則正しい音が響いてきた。
達也と大山は顔を見合わせた。音の正体は、あの部品のない置き時計だ。
二人が店の奥に近づくと、時計の前に倒れた椅子があった。その椅子を立て、時計に目をやる。時計の中は、やはり空っぽだ。しかし、文字盤の針は正確に時を刻んでいる。
「おかしい。どうなってるんだ」理系のプログラマーである大山は、その不可解さに興奮を隠せない様子だ。
その時、達也が持っていた真鍮のキーが、かすかに熱を帯びたのを感じた。
達也は、まるで引き寄せられるように時計を傾け、裏側の木目をなぞる。木箱の底に、キーの形にぴったり合う、小さな鍵穴を発見した。
「おい、まさか……」大山が息を呑む。
達也は手に持っていたキーを鍵穴に差し込み、カチリと音がするまで回した。
その瞬間、時計の文字盤全体が鈍い光を放ち、次の瞬間、木箱全体が音もなく縦に割れた。
中には何もなかったはずだ。しかし、割れた木箱の内部には、一瞬、無数の歯車が絡み合った複雑な機構が輝き、達也たちの目に焼き付いた。そして、次の瞬間には、その機構は煙のように消え去った。
同時に、文字盤の針が激しく逆回転を始めた。秒針が、分針が、時針が、けたたましい音を立てて時間を遡っていく。
大山が「やばい!」と叫ぶのを聞いた直後、達也の体は強烈な目眩に襲われた。視界が歪み、空間がねじれていく感覚。