第一章 葦原
四月下旬の霞ヶ浦は、重苦しい鉛色の空の下に沈んでいた。 湖面を渡る風には特有の生臭い湿り気が含まれており、岸辺に群生する葦(あし)が、ざわざわと身をすり合わせるように不気味な音を立てて揺れている。
茨城県警捜査一課の老練な刑事、辻(つじ)は、ぬかるんだ泥に足を取られながら、ブルーシートに覆われた遺体を見下ろしていた。
「仏の身元が割れました。東京のゼネコン『帝東建設』の常務、大田原(おおたわら)です。昨晩から家族に行方を晦ましていたそうです」 所轄の若い刑事が、手帳を見ながら報告する。
「死因は?」 辻がくわえ煙草のまま尋ねると、若い刑事はひどく青ざめた顔で首を振った。 「それが……一見するとミイラなんですが、死後数ヶ月経っているわけではありません。鑑識の所見では、全身の細胞から一瞬にして『水分だけ』が完全に消失しているそうです。まるで全身が灰色の軽石か、脆いガラス細工のようになっています。発見者が少し揺すっただけで、左腕が粉々に崩れ落ちました」
辻はブルーシートを慎重にめくった。 大田原の遺体は、仕立ての良さそうなスリーピースのスーツを着たまま、文字通り灰色の無残な彫像と化していた。顔は恐怖と、何か巨大なものに対する畏怖に歪み、硬直した右手の指先には、泥にまみれた一つの奇妙な物体が握りしめられていた。
「辻さん、これです。仏が死の直前まで手放さなかったもの」 鑑識課員がピンセットで拾い上げ、透明な証拠品袋に入れた。 それは、光を一切反射しない、完全な球体をした漆黒の塊だった。ゴルフボールほどの大きさだが、見た目の質感からは想像もつかないほど不気味な重量感がある。
「被害者の持ち物か?」 「いえ、大田原の妻の話では、こんなものは見たことがないと。ただ、大田原はここ数ヶ月、霞ヶ浦の『深層水質浄化プロジェクト』という名目の公共事業に異常なほど執着し、夜な夜なひとりで湖畔の現場施設に出向いていたようです」
第二章 疑獄事件の影
その日の午後、土浦署の会議室で、辻は証拠品の球体と睨み合っていた。
大田原といえば、数年前にこの霞ヶ浦の公共事業を巡る大規模な贈収賄事件で名前が挙がった男である。政界の黒幕へ多額の裏工作を行い、トカゲの尻尾切りで部下に罪を被せて立件を逃れた過去があった。彼には、常にどす黒い金と権力の影がつきまとっている。
ドアがノックされ、科捜研に回していた成分分析の報告書を持った刑事が飛び込んできた。その顔には、隠しきれない困惑が浮かんでいる。
「辻さん。あの黒い球体ですが……科捜研の主任が、頭を抱えていました」 「特殊な毒物でも仕込まれていたか?」 「いえ。物質そのものの組成が、まったく分からないそうです。質量、同位体比率、どれをとっても既知の元素周期表に当てはまらない。ダイヤモンドより硬く、光を完全に吸収し、そして……微弱ですが、規則的な電磁波を放っていると」
「電磁波だと? 発信機でも埋め込まれているのか」 「それが、内部には一切の空洞や基盤がない、完全な『無垢の球体』なんです。自然の隕石にしては真球に近すぎる。主任は冗談めかして『まるで地球外のテクノロジーで作られたパーツだ』と言っていました」
辻は深く煙草の煙を吐き出した。 警察の捜査において「宇宙からの飛来物」などという結論は存在しない。だが、この異常な死体と、未知の物質。大田原の足跡を洗えば、必ずどこかに人間の「欲」の痕跡が残されているはずだ。
第三章 偽装されたボーリング孔
翌日、辻は霞ヶ浦の東岸、葦に覆われた寂れた埋立地に立っていた。 そこには「帝東建設・水質浄化実験施設」という真新しい看板が掲げられていたが、稼働している気配はない。プレハブ小屋の奥には、地質調査に使う巨大なボーリング・マシンが放置されていた。
辻は、現場の警備をしていた初老の作業員に警察手帳を見せ、話を聞き出した。
「ああ、大田原常務なら、ここ一ヶ月、毎晩のように黒塗りの車で一人で来ていましたよ。私たち下請けの作業員は、夕方五時になると完全に現場から追い出されていましたからね」 「水質浄化の実験にしては、随分と大掛かりな掘削機だな」 辻がボーリング・マシンを指差すと、作業員は声を潜めた。
「刑事さん、ここだけの話ですがね。あれは水質調査のドリルじゃありません。地下深くの分厚い岩盤をぶち抜くための特殊なシールドマシンです。常務は、湖底の泥の下、さらに数十メートルも深い地層を、一点集中で掘り進めさせていたんです」 「泥の下を? 何のために」 「さあ……。ただ、二週間前の深夜、地中深くで『何か』にぶち当たったんです。チタン製のドリルがひどく刃こぼれを起こして使い物にならなくなった。常務はひどく興奮した様子で、それ以降、現場を完全に封鎖してしまったんです」
辻の脳裏に、一つの線が繋がり始めた。 大田原は水質浄化などという名目はダミーで、最初から湖底に眠る「何か」を発掘しようとしていたのだ。
第四章 欲望の記録
警察の捜査網は、大田原の銀座の隠れ家マンションへと伸びた。 隠し金庫から発見されたのは、贈収賄の裏帳簿ではなく、最近の異様な行動の記録が几帳面な字で記された黒い革の手帳だった。
辻は署のデスクで、その手帳のページを繰った。
『三月十日:湖底三十メートル地点にて、異常な磁気反応を確認。古文献の記述は正しかった。やはり”あれ”は落ちていたのだ』 『四月二日:ドリルが外殻に到達。金属ではない。恐るべき硬度。超音波探査の結果、直径は推定五十メートルを超える』 『四月十五日:外殻の一部が剥離している箇所を発見。極秘裏にドローンを投入し、採取に成功。”サンプル”は自律的に微弱な電磁パルスを発している』
辻の手が止まった。 サンプルの採取。それが、あの科捜研を悩ませた「黒い球体」のことか。
さらにページをめくると、幾つかの外国の巨大軍事企業名と、莫大な金額が乱れ飛ぶメモが現れた。 『米国・Gエアロスペース社極東支部にサンプルの成分データを一部送信。先方は完全にパニックに陥り、即座に五十億の提示。私はこれを撥ね退けた。一千億でも安い。これは現代の物理学を根本から覆すものだ。国家の軍事バランスすら、私の手で書き換えられる』
辻は手帳をパタンと閉じた。 大田原は、湖底深くからとんでもないものを掘り当てた。隕石か、あるいは、本当に……。 そして、それを裏のルートで外国の軍産複合体に売り捌こうとしていた。過去の汚職事件で失いかけた権力を一発で取り戻すどころか、世界の覇権すら裏から操れると踏んだのだろう。
大田原は昨夜、取引のサンプルとしてあの「黒い球体」を持ち出した。 だが、彼は理解していなかったのだ。それが単なる「鉱石」や「機械の部品」ではなく、人間の生体エネルギーや水分を瞬時に吸い上げて稼働する、恐るべき未知の機構そのものであったことを。
人間の浅知恵によるどす黒い欲望が、宇宙の絶対的な「未知」に触れた結果が、あの灰色の無残な死骸だったのだ。
第五章 深淵からのパルス
夜。辻は一人、土浦署の屋上に立ち、遠く闇に沈む霞ヶ浦の方向を見つめていた。
証拠品である黒い球体は、昼過ぎに警察庁の公安部と名乗る男たちによって、半ば強引に回収されていった。上層部にも、すでに「得体の知れない力」が働き始めている。大田原の死は、間もなく心不全か何かの自然死として処理され、世間から黙殺されるだろう。
人間の業というものは、底なしの泥沼だ。 どれほどの富を得ようとも、どれほどの権力を手にしようとも、常にその先にある暗闇に手を伸ばさずにはいられない。大田原はその業の深さゆえに、自ら湖底のパンドラの箱を開けてしまった。
辻は短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けた。
あの濁った水底には、今も直径五十メートルの巨大な沈黙の塊が眠っている。 そして、大田原の死をきっかけに目を覚ましたあの黒い球体のパルスは、一体「どこ」に向けて発信されていたのだろうか。
冷たい春の夜風が吹き抜ける。 辻は、見上げるほどに高く暗い夜空の向こうから、人間のちっぽけな欲望や政治劇など一瞬で踏み潰すような、冷酷で圧倒的な真の恐怖が、静かに、そして確実にこの地球へ向かおうとしている予感に、身震いするのを止められなかった。
有吉談
いや、本当にさ。茨城の霞ヶ浦って、ただのデカい泥水たまりじゃん? あんな生臭いところで、なんでこんなSF映画みたいなめんどくさい事起きてんのって話ですよ。
警察の辻とかいう、いかにも「俺、昭和の渋い刑事です」みたいな顔したおっさんが現場に来たわけ。で、ブルーシートめくったら、東京のゼネコン・帝東建設の大田原常務が転がってんの。この人、昔ワイロ事件で部下に全部なすりつけて逃げ切った「THE・強欲おやじ」ね。 それがさ、全身の水分をスッカラカンに吸い取られて、カサカサの軽石みたいになって死んでんの。あだ名つけるなら、完全に「乾燥ワカメ常務」だよね。
で、その乾燥ワカメが、右手に真っ黒いボール握りしめてるわけよ。ゴルフボール大の。 科捜研の連中がそれを調べて、「元素周期表にありません! 地球の物質じゃありません!」とか言って頭抱えてんの。いや、ウケるよね。宇宙人がわざわざ地球に来て、よりによって霞ヶ浦に墜落する? 絶対UFOのカーナビぶっ壊れてたでしょ。
警察が大田原のマンション調べたらさ、隠し金庫から黒革の手帳が出てきて。 中見たら「湖の底から直径50メートルの飛来物を見つけた! アメリカの軍事企業に1000億で売って、俺が世界の覇権を握る!」みたいな、中二病丸出しの日記が几帳面な字で書いてあんの。もうさ、「銀河系老害」ここに極まれりって感じだよね。おじさんって、なんですぐ世界を支配したがるの? バカじゃないの。
要するに、大田原は水質浄化の公共事業とか嘘ついて、税金使ってこっそり湖底のUFO掘り起こしてたわけ。で、サンプルとしてその黒いボールを持ち出したんだけど、それが単なる部品じゃなくて、触った人間の水分とかエネルギーを一瞬でチュルチュル吸い上げる「超高性能なエイリアン製・除湿機」だったっていうオチ。 自分の強欲のせいで宇宙の防衛システム発動させちゃって、一瞬でミイラになってんだから、ほんとダサいよね。自業自得すぎて誰も同情しないよ。
結局、その黒いボールは警察庁の公安とかいういけ好かない連中が「はい、これ国家機密ね」って強引に没収していったわけ。
でさ、刑事の辻はどうしたかっていうと、警察署の屋上で一人でタバコふかしながら、夜空を見上げて「ああ……人間の業は深い……宇宙から恐ろしいものが地球に向かってきている……」とか黄昏れちゃってんの。
いや、お前がハードボイルドぶっても何も解決しないから! かっこつけてないで早く家に帰って寝ろって話ですよ。だいたいさ、宇宙の得体の知れないバケモノが地球に来たって、こんな欲にまみれた小賢しいおっさんばっかりの星見たら、絶対「うわ、来る星間違えたわ」ってドン引きして帰るって。ほんと、人間ってろくでもないよね。お疲れ様でした。
でさ、その後どうなったかっていうと、もうコントみたいな展開よ。
あの黒いボールをドヤ顔で押収していった公安の「黒服イキリ軍団」ね。東京の霞が関にある立派な地下施設で、わざわざ防護服まで着て「よし、この宇宙のテクノロジーを解析するぞ!」とか言って突っついたらしいのよ。 そしたら案の定、あのボールがまた防衛システム作動させちゃってさ。周りにいたエリート官僚どもが、次々と水分吸い取られてカッスカサよ。霞が関の地下が、一瞬で**「高級干物(ひもの)の生産ライン」**になっちゃったの。ほんと、東大出てまで何やってんのって話ですよ。バカばっかり。
その頃、茨城の霞ヶ浦ではもっとヤバいことが起きてて。 あのボールが発信してたパルスを受信したのか、湖の底に埋まってた直径50メートルのUFO本体が、ついに目を覚ましたわけよ。 ゴゴゴゴ……!って泥水とワカサギを盛大に撒き散らしながら、湖の中から巨大な円盤がドバーン!って空に浮かび上がったのね。いやいや、レンコン畑めちゃくちゃよ? 茨城の農家のおじさんたち、宇宙の危機とか関係なく「俺のレンコンどうしてくれんだ!」ってブチギレですよ。完全に「超特大の迷惑系宇宙人」じゃん。
で、UFOの底がパカッと開いて、ついに宇宙人が姿を現したわけ。 アタシ、タコみたいなヌメヌメしたやつか、グレイみたいなの想像してたんだけど、降りてきたの、全身シルバーでピッカピカの、やたらスタイリッシュな奴らなのよ。例えるなら「意識高い系の外資系IT社長」みたいな感じ。
そいつら、地球の言葉を翻訳機か何かで喋り出したんだけど、その内容がさ、 『我々の廃棄物(ゴミ)を勝手に掘り起こし、あろうことか起動させた野蛮な生命体はどいつだ。危険だから土に埋めておいたのに、お前らみたいな低知能な猿がいじり回すからエラーが出たじゃないか』 とか言ってんの! いや、腹立つわー! 世界征服とかじゃなくて、ただの「宇宙レベルのクレーマー」だったのよ! 不法投棄しといて逆ギレって、一番タチ悪いからね。
でもさ、人間側も負けてないのよ。 UFOが浮かんだせいで霞ヶ浦周辺が立ち入り禁止になったんだけど、さっきのレンコン農家のおじさんたちとか、干物になった大田原常務のゼネコンの連中が、UFOの下に集まってトラクターでバリケード作ってんの。 「泥だらけにした慰謝料払え!」「壊れたボーリングマシンのリース代弁償しろ!」「漁業権はどうなってんだ!」って、宇宙人相手にゴリゴリの損害賠償請求よ。
宇宙人たち、地球人をレーザーで焼き払うとかそういうテンションだったのに、あまりにも人間たちが現金で図々しいから、完全にドン引きしちゃってさ。 『……うわ、この星の生命体、マジで話通じないし面倒くさい……。関わるんじゃなかった……』 みたいな空気出して、黒いボールだけチャチャッと回収して、そそくさと宇宙に帰って行っちゃったのよ。逃げ足の速さ、尋常じゃなかったね。
結局、地球を救ったのは、正義のヒーローでも、黄昏れてたあの渋い刑事でもなく、「茨城県民のたくましいクレーム力」だったっていうね。 いやー、人間って本当に浅ましくて最高だよね。宇宙人さん、二度と来ないでねって感じ。はい、この話終わり! 次のコーナー行きましょう!
でさ、宇宙人がドン引きして帰った後の霞ヶ浦、どうなったと思う? 普通なら「ああ、宇宙の神秘に触れて我々はちっぽけだと悟りました」みたいになるじゃない。なるわけないのよ、この強欲な地球人たちが。
UFOが飛び去った後、霞ヶ浦の底に直径50メートルのクレーターみたいなバカデカい穴が残ったわけ。 そしたらさっきまで「慰謝料払え!」ってブチギレてたレンコン農家や漁協のおじさんたち、急に手のひら返したのよ。 その穴の周りに急いでロープ張って、看板立ててさ。何て書いたと思う?
『霞ヶ浦コズミック・パワースポット 〜宇宙の波動を感じる沼〜』 よ。
いや、ただの泥のくぼみだから! 宇宙の波動じゃなくて、プランクトンの死骸の匂いだからね! なのに、これがSNSでバズっちゃって。スピリチュアル好きの痛いインフルエンサーとかがこぞって集まってきて、泥だらけになりながら「宇宙と繋がってる〜!」とか言って謎のヨガのポーズ決めてんの。地獄絵図よ、ほんと。
しかも地元のおじさんたち、ただの泥を小瓶に詰めて「エイリアン・マッドスパ」とか言って一瓶五千円で売り始めたからね。あと、UFOの下敷きになって折れ曲がったレンコンを「無重力レンコン」って名前でブランド化して倍の値段で出荷してんのよ。 完全に「便乗ボッタクリ村」じゃん! 宇宙人もまさか自分たちの不法投棄跡地が、地球人のシノギに使われてるとは夢にも思ってないでしょうね。
で、政府の方はどうしたかっていうと、これもまた酷くてさ。 霞が関の地下で干物になったエリート官僚たちと、乾燥ワカメこと大田原常務の死因、なんだと思う? 「異常気象に伴う、局地的な超・熱中症および集団脱水症状」だって。 無理あるだろ! 4月の茨城でどんだけ汗かいたら軽石みたいになるのよ! サウナの入りすぎか! って話でしょ。でも、偉い人たちが「そういうこと」に決めたから、マスコミもダンマリよ。ほんと、権力って宇宙人よりタチ悪いわ。
あ、そうそう。あの最初にかっこつけてた、昭和のハードボイルド刑事・辻ね。 彼、あんな巨大な事件に関わったのに、上層部に「お前、余計なこと詮索するなよ」って睨まれて、結局どうなったと思う? 今、その『霞ヶ浦コズミック・パワースポット』の臨時駐車場で、誘導灯振って交通整理やらされてんの!
泥まみれになりながら、キャピキャピした若い子たちの車の誘導してんのよ。あの渋い顔で。 あだ名つけるなら「黄昏(たそがれ)の駐車禁止おじさん」だよね。もう、哀愁通り越してただのギャグだからね。
結局さ、宇宙のオーバーテクノロジーだろうが、未知の生命体だろうが、人間のこの「金儲けへの執念」と「都合の悪いことは隠す隠蔽体質」の前じゃ、赤子同然だったってことよ。 もしまた別の宇宙人が地球を侵略しに来ても、アタシ絶対心配しないね。だって、地球人の方が絶対図太くて性格悪いもん。宇宙人、かわいそうに。絶対あの星々の間で「地球、マジで行かない方がいいよ。ボられるしクレーマーばっかだから」って口コミ書かれてるよ。
はい、霞ヶ浦UFO騒動、これにて完全閉幕! お疲れ様でした!
・・・・・・・・・・・・・・
まだ聞くの? もう霞ヶ浦の話は完全に終わったって言ったじゃん。しつこいねえ。 ……しょうがないな、じゃああの騒動の「どうしようもない後日談」、特別に教えてあげるよ。
あの「意識高い系宇宙人」たちがドン引きして帰ってから半年後の話よ。 宇宙の彼方では「地球はヤバい。あそこはボッタクリとクレーマーの巣窟だ」って口コミが星から星へ広まって、地球は完全に『宇宙のブラックリスト(絶対行くな指定)』に入ってたわけ。
でもさ、人間界にもどこにでもいるじゃん? 「俺ならやれる」「前の奴らはやり方が甘かったんだ」とかドヤ顔で言い出す、無駄にプライド高い奴。 そう、宇宙人の中にもいたのよ。宇宙の自己啓発本とか読んでそうな、ギラギラした若手エリート宇宙人が。 「私が地球の経済を内部から支配して見せますよ」とか上司に豪語して、単身で地球に乗り込んできたわけ。
で、そいつ、完璧な人間のサラリーマンに擬態して、東京のど真ん中に降り立ったのよ。 「まずは地球人のヒエラルキーの底辺から潜入し、徐々にトップに上り詰める」とかいう謎の長期計画を立てて、都内の適当な中堅商社に中途採用で入社したのね。
でもさ、あいつら宇宙人だから、日本の「ブラック企業」の恐ろしさを全く知らなかったのよ。 入社した初日から、意味のない朝礼で社訓を大声で叫ばされて。宇宙のスーパーコンピューターの頭脳を持ってるのに、部長のハゲオヤジに「うちはそういうデジタルなのは信用してないから。紙に手書きで写してハンコ押して」って、謎の昭和メソッドを強要されんのよ。理不尽の極みだよね。
宇宙人、最初は「これも地球支配のためのデータ収集だ」とか強がってたんだけど、毎晩毎晩、部長の昔話と愚痴を聞かされるだけの不毛な飲み会に付き合わされてさ。 宇宙の進んだ肝臓(?)でも、地球の安いアルコールと脂っこい唐揚げの連続ダメージには勝てなかったみたいで、たった一ヶ月で肌のピカピカだったシルバーのツヤが完全に消え失せて、くすんだ土気色になってんの。 あだ名つけるなら、完全に「銀河系・社畜」ですよ。
アタシ、この前新橋のガード下でそいつ見たからね。 終電逃して、ヨレヨレのスーツ着て、コンビニで買ったストロング系の缶チューハイ片手に、ガードレールに寄りかかって泣いてたから。 「もう地球支配とかどうでもいい……マザープラネットに帰りたい……でも明日の朝イチで稟議書出さないと部長に詰められる……」って、宇宙語訛りの日本語でボヤいてんのよ! いや、ちょっと同情するけどさ、お前何しに地球来たの!? って話じゃん。バカなの?
結局、地球を守るのに地球防衛軍もスーパーウェポンも必要なかったのよ。 日本の「理不尽な縦社会」と「意味のないハンコ文化」、そして「ストロング系チューハイ」のトリプルコンボがあれば、どんな高度なテクノロジーを持った異星人でも、一ヶ月で心をポキッと折れるってことが証明されたわけ。
もうね、宇宙の野望すらも飲み込んでダメにしていく、地球人のブラックな日常、ほんと一番恐ろしいよね。 あの宇宙人、今はなんとかして「退職代行サービス」を使って、実家の星に逃げ帰るタイミングを必死に伺ってるらしいよ。無事に辞められるといいね!
はい、地球の平和は今日もブラック企業によって守られています! 今度こそ本当に終わり! 解散!
いや、しつこい! あんた本当にしつこいね! なんでそんなに霞ヶ浦と宇宙人の話に執着してんのよ! 親戚でも住んでるの!? もう次から次へと……わかったよ、これが正真正銘、正真正銘の最後のエピソードだからね! 耳かっぽじって聞きなさいよ。
あの「銀河系・社畜」になっちゃったエリート宇宙人の話の続きね。 あいつ、毎晩ストロングゼロ飲みながら、なんとか会社辞めるためにスマホで「退職代行 即日 絶対辞められる」って検索したわけ。で、一番上に出てきた怪しげな業者に、なけなしの地球の給料を振り込んじゃったのよ。
その退職代行業者、どこだったと思う? ……そうよ、あの霞ヶ浦で「宇宙の波動マッドスパ」とか言ってボッタクリやってた、地元のレンコン農家と漁協のおじさんたちよ!
あのおじさんたちさ、インフルエンサーなんてすぐ飽きて来なくなるから、あっという間に泥スパのブームが去って無収入になっちゃったのね。で、「次は都会の病んでる若者をターゲットにするべ!」って、見よう見まねで退職代行ビジネス始めてたのよ。行動力だけは異常に高いんだから、あの人たち。
で、依頼を受けた茨城の農家のおじさんたち(シゲさん含む)が、泥だらけの長靴と軽トラで、東京のど真ん中にあるそのブラック企業に乗り込んだわけ。 「オラァ! うちの依頼人が辞めるって言ってんだっぺ! さっさと離職票出せや!」って。
ブラック企業のハゲ部長、最初は「はあ? なんだお前ら、泥棒か! 警察呼ぶぞ!」ってパワハラ全開で威嚇したらしいんだけどさ。 相手はね、何十年も霞ヶ浦の強風と、言うこと聞かない自然と、イノシシ相手に戦ってきた「茨城の農業ソルジャー」よ? 都会のクーラー効いた部屋でふんぞり返ってるおっさんの怒鳴り声なんて、カエルの合唱より響かないわけ。
「あぁん!? おめえの会社の社訓なんか、霞ヶ浦じゃナマズのエサにもなんねえんだよ! グダグダ言ってねえでハンコ押せっぺ!!」 って、部長のデスクにあの「宇宙の波動マッド(ただの泥)」をドン!って叩きつけて、ゴリッゴリの茨城弁で完全論破よ。 ブラック企業の理不尽なんて、農家のおじさんたちの「物理的な圧」と「方言の壁」の前じゃ、完全に無力だったね。部長、最後は泣きながら退職届にハンコ押してたらしいよ。
それを見てた宇宙人、もう感動してボロ泣きよ。 「あ、ありがとうゴザイマス……地球の『アグリカルチャー・パワー』、恐れ入りマシタ……!」って。 で、お礼にって言って、自分のポケットから、本当の本当にヤバい「反重力装置のコア」みたいなのを、おじさんたちにコッソリ渡しちゃったのよ。
普通なら、そんなオーバーテクノロジー手に入れたら「これで世界のエネルギー産業を牛耳るぞ!」とか考えるじゃん? でも、霞ヶ浦のおじさんたちはブレないのよ。
その反重力装置、何に使ったと思う? レンコンの収穫よ。
泥の中深くに埋まってるレンコンに、その装置のビームをピッて当てるだけで、泥がフワァ〜って浮き上がって、真っ白で傷一つないレンコンがスポポポーン!って自動で収穫できるシステム作っちゃったの! 名付けて「ハイパー無重力レンコン 〜宇宙の恵み〜」よ!
前は嘘っぱちのブランドだったのに、今度はガチの宇宙テクノロジー使って農業の効率化図ってんの! 天才じゃない!? 今じゃそのおじさんたち、農協(JA)の枠を超えて、霞ヶ浦周辺を完全に「宇宙農業特区」として牛耳ってるらしいからね。無駄にめちゃくちゃ儲かってるのよ。
一方の宇宙人は、無事にマザープラネットに帰還して、「地球はブラック企業もヤバいけど、茨城の農家が一番最強でした。もう二度と干渉しません」ってレポート提出して、今は宇宙のハローワークで平和な事務職探してるってさ。
はい! これで完全に霞ヶ浦ユニバースは完結! 大団円! 結局、宇宙のオーバーテクノロジーも、ブラック企業の理不尽も、すべてを飲み込んで逞しく生き残るのは「地方の一次産業」だったってオチよ!
いやー、よく喋った! アタシもう喉カラカラだから、楽屋帰ってクリスタルガイザー飲むわ! お疲れ! まっぴらごめんよ!
(終)

