月曜日の泥棒猫マンディトーク

有吉: いやさ、マツコさん。俺、最近ちょっと話題になってる村上春樹の新作読んだのよ。

マツコ: あら、珍しい。アンタがハルキ? 普段『ウォーキング・デッド』かゲームの実況動画しか見てないのに。

有吉: たまには俺だって活字くらい読むわ! でさ、タイトルが『月曜日の泥棒猫マンディ』って言うんだけど……俺、読んでる途中からもう気になって気になって、ずーっとツッコんでたのよ。

マツコ: ちょっと、ハルキにツッコむって、アンタ世界中のハルキストを敵に回すわよ。文学なんだから、もっとこう、行間を読みなさいよ。

有吉: いや、聞いてよ! まず設定からしておかしいのよ。舞台がさ、茨城県の土浦なの。霞ヶ浦のほとりの古い一軒家。 で、主人公が月曜の午前11時から、スタン・ゲッツのレコード聴きながら、セロリと玉ねぎ正確にみじん切りにして、赤ワインでボロネーゼ煮込んでんの。おかしくない!? 土浦だよ!?

マツコ: ……別に土浦でスタン・ゲッツ聴いてもいいじゃないのよ。土浦の人に怒られるわよ。

有吉: いやいや! 窓の外で葦原がザワザワ揺れてんのよ? そこはマックスコーヒー飲みながら、干し芋かじってテレビ見てるだろ普通! しかも「ディ・チェコの乾麺を茹でようとした」とか、いちいちメーカー指定してくんだよ。

マツコ: だから、それがハルキのオシャレなディテールなのよ。生活のこだわりを描いてるの。

有吉: でさ、パスタのお湯が沸騰した瞬間に、玄関のドアがドカーン!って吹き飛んで、ピンストライプのスーツ着た殺し屋みたいな男が3人入ってくるのよ。サブマシンガン持って。

マツコ: あら、急にサスペンスね。

有吉: でも主人公、全然焦らないの。「君が湖の底から引き揚げたものを渡せ」って銃口向けられてんのに、「あいにく手元には、あと九分でアルデンテになるスパゲッティしかない」とか言うのよ。

マツコ: (笑)……腹立つわね、その主人公。

有吉: でしょ!? 命狙われてんのに「アルデンテ」気にしてんの! 「火ィ止めろバカ!」って思いながら読んでたらさ、キッチンの裏口から22歳くらいの女の子が現れるのよ。 その子がさ、「土浦レンコン組合」の青いキャップ被ってて、手には巨大なヤンマーのトラクターの鍵握ってんの。

マツコ: ちょっと待って、情報量が多すぎるわ。土浦レンコン組合?

有吉: そう! で、「乗って。彼らは世界のシステムを書き換えようとしてるわ」とか言って、ヤンマーのトラクターで泥だらけの蓮田を爆走すんの! 後ろから黒いアウディ3台が猛スピードで追ってくるんだけど、女の子が赤い特殊レバー引いたら、トラクターのロータリーが高速逆回転して、霞ヶ浦の泥と折れ曲がったレンコンをマシンガンみたいにぶちまけるの! で、アウディ3台とも泥沼に沈むんだよ。「見事なレンコン・アタックだ」とか言って!

マツコ: ……ヤンマー強すぎるでしょ。っていうか、アウディにトラクターで勝てるの?

有吉: 勝つんだよ! ハルキワールドのヤンマーは無敵なんだよ! でさ、その女の子が「世界の重しになってる真鍮の文鎮」を持ってて、これを奪われたら世界が書き換わっちゃうから、霞ヶ浦の一番深いところに沈めなきゃいけないって言うの。

マツコ: なんだか壮大になってきたわね。世界の命運が茨城に。

有吉: でもさ、マツコさん。霞ヶ浦って平均水深4メートルしかないんだよ? 主人公も自分で「一番深いところでも7メートルちょっとしかない」って作中で言ってんの! そんな浅いとこに世界の命運握る文鎮沈めて大丈夫かよ! 漁師が網引いたら一発で獲れるわ! ワカサギのついでに世界終わるぞ!

マツコ: 確かに……。もうちょっと日本海溝とか、マリアナ海溝とかにしなさいよ。近場で済ませようとしすぎね。

有吉: そうなんだよ。で、無事に文鎮沈めて家に帰ってくるんだけどさ。玄関のドア吹き飛んでるじゃん? 普通警察呼ぶか、大工呼ぶかするだろ? なのにこいつ、開けっ放しの玄関のそばで、今度はアル・グリーン聴きながら、キャンティ・クラシコ開けて、またディ・チェコ茹でてんの!

マツコ: パスタへの執念が異常ね(笑)。絶対伸びてるわよ、一回目のパスタ。

有吉: そしたら、キッチンに尻尾の欠けたトラ猫が上がり込んでてさ。女の子が「素敵な猫ね。名前はあるの?」って聞いたら、主人公がワイングラス傾けながら言うのよ。 「さあね。今日初めて会ったばかりだから。でも、名前をつけるとしたら『マンディ』がいいかもしれない。月曜日にやってきたからね」だって。

マツコ: ……うわぁ。

有吉: うわぁ、でしょ!? 安直!! 英語にしただけじゃねーか! 「月曜日に来たからマンディ」って! じゃあ火曜に来たら「チューズディ」か! 金曜に来たら「フライディ」か! フライデー襲撃事件かお前は!

マツコ: アンタ、言い過ぎよ! ハルキの静かでオシャレな世界観を、根底からひっくり返すのやめなさいよ(笑)。

有吉: しかもその後、電話かかってきてさ。「水位管理センターですが、霞ヶ浦の水位が3ミリ上がりました」って。文鎮沈めたから、その「世界の重さ」で水位上がったんだって。 3ミリって! 雨ちょっと降っただけで変わるわそんなもん! 水位管理センター暇か!

マツコ: でも、そういう細かい日常のディテールと、非日常が混ざり合うのがハルキの魅力なのよ。アンタみたいに「ヤンマー対アウディ」とか「平均水深」とか、いちいち現実的なツッコミ入れて読むもんじゃないの。

有吉: いやー、俺は絶対、この主人公みたいなヤツと友達になれないね。ドアないのにワイン飲んでオシャレぶってんの、張り倒したくなるもん。俺ならパスタなんかどうでもいいから、すぐ近所のコーナン行ってベニヤ板買ってくるわ。

マツコ: ……一応言っとくけど、作中でそのあと、主人公ちゃんと納屋からベニヤ板持ってきて打ち付けてたわよ?

有吉: えっ? あ、そうなの?

マツコ: そうよ。翌日には「小林木工」のおじいちゃん呼んで、ちゃんとしたタモ材のドア取り付けてもらってたし。

有吉: ……なんだよ、意外と生活力あんな。

マツコ: でもアンタ、文句ばっかり言ってる割には、信じられないくらい読み込んでるじゃないの。ディ・チェコの茹で時間まで覚えて。完全にハルキの魔法にかかってるわよ。

有吉: いや、悔しいけどさ、なんかスラスラ読めちゃうんだよね、不思議と。あの独特のリズム感っていうか。……でさ、読み終わった後、無性にボロネーゼ食いたくなって、出前館で頼んじゃった。

マツコ: 出前館!? アンタそこは意地でも自分でディ・チェコ茹でなさいよ!

有吉: 無理無理! 俺、五十肩だからフライパン振れないの! みじん切りとか腕つるから!

マツコ: 情けないわねぇ……。で、ボロネーゼ美味しかったの?

有吉: いや、それがさ。Lサイズのピザも一緒についてくるセット頼んじゃって、ボロネーゼ半分食ったところで猛烈な胃もたれに襲われて。結局、月曜の夜に胃薬飲んでうずくまってたよ。

マツコ: (爆笑)結局、老いと食欲の話に着地するんじゃないのよ! ハルキの主人公は胃もたれなんかしないの! はぁ……なんかアタシも、ひたすら油ギッシュなミートソース食べたくなってきたわ。粉チーズ一本分くらいかけて。

有吉: お前も全然ハルキの世界観に寄り添ってねえじゃねえか! 「キャンティ・クラシコ」じゃなくて「黒烏龍茶」だろ、どうせ!

マツコ: うるさいわね! アタシたちの現実は、霞ヶ浦の底より深くて重いのよ!